特定商取引法(特商法)改正
2021年の特定商取引法の改正のうち、契約書面等の電子化対応に関する改正法が、つい先日2023年6月1日に施行されました。これまでは紙の契約書が義務付けられていたのですが、消費者側が希望すればメールなどで電子交付ができるようになったわけです。
消費者団体からは、利便性や有益性が得られない人が出てくるだけでなく、かえって不利益になる人も出てくるのではといった声も出ていたようです。とはいえ、すでに6月1日から施行がされたわけですから、訪問販売や電話勧誘などて消費者が承諾すると契約書が電子交付されることになります。なんだか心配、という方もおられるようなので、ポイントだけまとめておこうと思います。
まず、特定商取引法とは、消費者と事業者間の契約のうち、特に消費者が悪徳商法等の被害に遭いやすい取引類型(たとえば訪問販売)を対象に、一定の規制を定めることで、消費者を保護することなどを目的とした法律です。2021年6月9日に成立した改正特商法の正式な名称は「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の⼀部を改正する法律」(令和3年法律第72号)です。改正の目的は、詐欺的な定期購入商法対策の強化、送り付け商法対策の強化、消費者利益の擁護増進のための規定の整備等とされています。
この改正により、契約書面等に記載すべき事項について、メールでのデータ送信、ウェブサイト上で閲覧・ダウンロードなどの方法により提供できるようになりました。ただし、電子交付を行う場合は、消費者から事前の承諾を得る必要がありますし、交付方法にも一定の制限があります。
実際には「申込書面(訪問販売、電話勧誘取引、訪問購入)」「契約書面(通信販売以外の全ての取引)」「概要書面(連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘因販売取引)」が電子交付することが可能になっています。それぞれに消費者の承諾が必要です。加えて、重要事項について説明する必要があります(特商規10条1項)。クーリングオフについての説明ももちろん義務です。
さらに説明をしたうえで、消費者が電磁的方法による提供を受ける者として適切かを確認する必要があります。日常的にパソコンなどの電子機器を使いこなせているかどうかや、受け取るデバイスの画面が4.5インチ以上であることなどです。これらの説明および確認の後に、消費者から承諾を得ることになります。この承諾も書面等によって行われる必要があり(特商令4条1項)、口頭による承諾では無効になります。承諾書面は写しの交付が必要です。ここまできてもまだ終わりません。事業者は消費者に対し、その承諾を得たことを証する書面(控え書面)を交付しなければなりません(特商規10条7項)。
承諾の撤回は可能です。消費者が一度、契約書面等の電子交付を承諾しても、電子交付を受けない旨の申し出を行って承諾を撤回できます。承諾の撤回があった場合、電子交付を行うことはできません(特商令4条2項本文)。
細かい規定がいろいろありますが、気になる方は検索して調べていただければと思います。特に確認しておきたいのは、事業者の禁止行為です。以下のような行為が禁止されていますので、チェックしておきたいですね。
① 電子交付を希望しない消費者に対して、電子交付の手続きを進める行為
② 消費者の判断に影響を及ぼすこととなるものについて、事実でないことを告げる行為
③ 威迫して困惑させる行為
④ 財産上の利益を供与する行為
⑤ (電子交付ではなく)書面の交付をするのに費用の徴収等の不利益を与える行為
⑥ 適合性の確認に際して不正の手段により不当な影響を与える行為
⑦ 適合性の確認をせず、または確認ができない消費者に対して電子交付する行為
⑧ 不正の手段により消費者の承諾を代行し、または電子交付される事項の受領を代行する行為
⑨ 消費者の意に反して承諾させ、または電子交付される事項を受領させる行為
紙の契約書であれば、高齢者が悪質な契約と押し付けられた場合でも、家族が発見しやすいのですが、電子交付だと不安になります。特に一人暮らしの高齢者の場合が心配です。何か心配事があった時に行政書士に相談する、そんな風潮が作れたらと思います。そうでなければ、身近な法律家、頼れる街のかかりつけ法律家とは呼べないですよね。理容室・美容室、薬局、整体、いろいろなところで「行政書士に相談してみれば」と声をかけてもらえるように活動していきたいです。