海外居住者と遺言執行人の復任権

 既婚で子供あり。家族で海外在住。日本には親がひとり実家に住んでいる。私の知人にもいらっしゃいますが、海外在住の方は多くいらっしゃいます。

 この場合の相続を考えると、不動産の所有権移転登記をはじめ様々な手続きがありますから、日本に居るのと違って大変なことが分かります。兄弟姉妹がいない一人っ子の場合は、特に大変ではないでしょうか。専門家に委任するにしても限度がありますから、日本に帰国して行わなければならない手続きも出てきそうです。考えるに、やはり遺言を残すのが、いちばん良いのではないでしょうか。

 なぜかというと、遺言の中で遺言執行人を指定しておくことで、相続作業がスムーズに進むと考えられるからです。

(遺言執行者の権利義務)
第1012条
1 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。

 遺言執行人は、受遺者(相続財産を受け取る人)を指定する場合と、法律の専門家など受遺者以外を指定する場合がありますが、受遺者以外を指定する場合には注意が必要です。受遺者は、原則として遺言で指定された遺言執行者を自分の意思で変更することはできないからです。もちろん、遺言執行者の「任務の懈怠」など、一定の正当な理由があれば家庭裁判所に申し立てて解任することはできますが、なかなか難しいようです。

(遺言執行者の解任及び辞任)
第1019条
1 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
2 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。

また、専門家を遺言執行者に指定する場合、後々のトラブルにならないように遺言執行の報酬を遺言に定めておくなど、けっこう面倒な調整が求められます。

 一方、受遺者遺言執行人にも指定された場合、一人っ子で海外在住なら相続手続きをするのが大変ではないのか、となりますが、実は遺言執行人の復任権を利用するという方法があります。つまり、代理人を選べるということです。最初から遺言の中に記載することもできますが、相続開始後に選任することも可能です。

(遺言執行者の復任権)
第1016条
1 遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2 前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。

 専門家に遺言執行を頼むことが可能になりますから、帰国する必要もありません。相続開始後、受贈者がすぐに専門家に連絡を取って適切に手順を進めることができるようになります。報酬に関しては、遺言執行人と専門家の間で合意で決めることができます。

 どちらにしても遺言書がキーになってきますから、日本におられる親御さんに公正証書遺言を作成してもらっておくことが大切になってきます。検認が不要ですし、記載内容に法的不備がないので安心です。

 海外在住の方がこの記事をお読みになるようでしたら、相続の参考に考えていただければ幸いです。その上で気になることがあるようでしたら、身近な相続を扱う士業にご相談されることをおすすめします。お知り合いにいないようでしたら、ぜひ頼れる街の法律家、行政書士にお声をかけてください。