残高証明書と取引履歴

 相続が始まったとき、「財産がどれだけあるのか分からない」ということは割と多いようです。預貯金について把握ができないと困ってしまいます。一般的にこうした場合には残高証明書を銀行窓口や金融機関から取り寄せます。

 ただし、残高証明書はあくまで「ある時点の残高」を示す書類です。過去にいくら入金され、いつ、誰が、どのように引き出したかといった履歴は残りません。たとえば、亡くなる数年前に多額の預金が引き出されていたとしても、残高証明書だけでは、まったく分かりません。。

 たとえばこんな例を考えてみてください。
80代で亡くなった父親の相続で、通帳がどこにあるのか見つからない。そこで残高証明書を取り寄せると、そこにはほぼゼロに近い残高が。
どう考えても数年前まで数百万円あったと思うが、同居していた兄弟は「もともと預金は少なかった」と話している。

 ここで重要になるのが、通帳の全履歴と、銀行から取り寄せる取引履歴(明細)になります。通帳が残っていれば、少なくとも記帳された範囲までは確認できますが、長期間にわたる取引や、通帳未記帳期間については分かりません。そのため、金融機関に対して「過去3年分」「過去5年分」といった形で、正式な取引履歴を請求する必要が出てきます。
(※銀行のデータ保存期間は一般的に10年程度らしいです。また税務調査で遡られる一般的な期間は5年〜7年のようです)

 よく貸金庫の相続で相続人全員の合意がなければ開けられないと言います。しかし金融機関への取引履歴の請求は、他の相続人の同意がなくても共同相続人の一人が単独で請求できるようになっています。根拠は最高裁判例(平成21年1月22日最高裁判所第一小法廷)です。これは相続人の一人が信用金庫に対して、預金口座につき、被相続人(亡くなった人)の生前の一定期間についての取引経過の開示を求めましたが、信用金庫は他の共同相続人全員の同意がないとして応じなかった事案です。

預金者が死亡した場合、その共同相続人の一人は、預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが、これとは別に、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(同法264条、252条ただし書)というべきであり、他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。(平成21年1月22日最高裁判所第一小法廷の判決より抜粋)

 取引履歴を見ることで、「特定の時期に不自然な高額出金がないか」「短期間で同じような金額が繰り返し引き出されていないか」「生活費としては説明がつかない使途がないか」なのか分かると思います。「生前贈与」とみなされれば特別受益として相続分から差し引かれますし、勝手に引き出されたものであれば不当利得返還請求の対象になります。犯人探しではなく、正しい相続財産の把握と財産分与のステップだと考えることが大切です。

 けっこう「うちは家族仲がいいから大丈夫」「子どもに任せているから問題ない」と考えがちですが、そうした感情とは別に、相続では正しい記録が重要になってきます。将来、家族が困らないためにも、通帳の保管場所を共有する、取引内容を整理しておきたいものです。もしエンディングノートに記載するのに口座番号を書きたくない場合は、支店さえ分かれば照会可能ですし、ネット銀行ならなおさら記録しておかないと分かりません。ただし、キャッシュカードの暗証番号共有は避けたほうが良いと思います。

 相続は「亡くなった後の話」ではなく、「元気なうちからの準備」で結果が大きく変わります。必要に応じて専門家に相談するなど、早めの備えが大切です。「そうだ行政書士に相談しよう!」行政書士はあなたの街の頼れるかかりつけ法律家です。お気軽にご相談ください。