第三者に委託する相続分の指定
遺言で相続人の相続分の指定を第三者に委託できることはあまり知られていません。もちろん民法に定められています。
第902条 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
ここでいう第三者とは誰を指すのか明確にされていません。そういうわけで裁判にもなっています。「第三者は、信義則上相続に関係しない者である必要があるから、相続人や包括受遺者は含まれない」(大阪高決昭和49年6月6日)という裁判所の判断がされています。それはそうですよね。共同相続人のうちの一人が相続分を指定する第三者となると、自分に都合の良い形で相続分を決めることができてしまいますから。この第三者には相続人だけでなく包括受遺者も委任を受けることはできないと解されています。
遺言で第三者に指名された人は、ちょっとビックリするのではないでしょうか。もちろん、指定を拒絶することはできます。拒絶したり、放置している場合は、民法114条(無権代理の相手方の催告権)を類推適用するようで、相続人などの利害関係人から催告ができ、相当の期間内に何もしない場合は、遺言による指定の委託は効力を失って法定相続分に従った相続になってしまいます。
第114条 前条の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす。
事前に確認しておくなど、拒絶することがない人を選んでおくことが大切ですね。それはそれとして、大前提としてなぜ第三者に委託するような条文が必要なのでしょうか。背景としては以下のような事情があるようです。
①相続人の生活状況(経済状態・健康・家業の承継など)は多様で、被相続人自身が生前に最適な割合を判断しきれない
②被相続人が自分で割合を決めると、特定の相続人に偏ってしまうので、中立的な第三者に委ねて公平な分割にしてもらいたい
③被相続人が遺言を作成した時点と、実際に相続が開始する時点では、相続人の状況が変わっていることが想定される
④第三者(弁護士、公証人、信頼できる親族など)が客観的に相続分を指定することで、相続人同士の争いを減らしたい
つまり、被相続人が自分で細かく相続分を決める代わりに、信頼できる中立者に判断を委ねることで、公平性・柔軟性・紛争防止を図る制度ということですね。
遺言書に記載するわけですから、第三者の特定は大切です。「相続分の指定は次の者に委託する。」といった記載と共に、住所・氏名・生年月日の記載は必須ですね。指定の指針なども記載しておくことも検討しておきたいです。たとえば上記の③の場合であれば、「相続開始時点での相続人それぞれの職業、年齢、経済状態等の一切の事情を考慮し、公平な相続分の指定を希望する」といった内容になるかと思います。
遺言書といっても様々です。定型の遺言書では「ちょっと自分の思いを反映できない」といったこともあります。そういったときは遠慮せず専門家に相談してみることをおすすめします。「そうだ行政書士に相談しよう!」行政書士はあなたの街の頼れるかかりつけ法律家です。もちろん守秘義務がありますので安心です。どうぞお気軽にお声をかけてください。
