海外居住相続人と遺産分割協議書

 遺言書がない場合、各種手続には遺産分割協議書が必要になります。相続人全員が間違いなく遺産分割の内容に合意したことを証明するわけですから、遺産分割協議書には、全員の署名と実印による押印が必要です。使用するときには実印であることを証明するために印鑑証明書が求められます。では、相続人が海外に住んでいる場合はどうなるでしょうか。

 印鑑を登録するには、居住している各市区町村に住民登録していることが条件になります。海外に住んでいて、日本に住民登録していない場合、印鑑登録できないですし、印鑑証明書は用意できません。こうした海外居住者が相続手続きを行う際には、特別な書類が必要となります。

 印鑑証明書の代わりになるのが、「サイン証明書(署名証明)」です。現地の日本大使館や領事館で「サイン証明(署名証明)書」を発行してもらい、印鑑の代わりとして使用できるよう手続きを行います。

 証明書を取得するには、領事の面前でサイン(及び拇印)して、申請者本人により署名(及び拇印)が領事の面前でなされたことの証明です。領事の面前で署名(および拇印)しなければならないので、署名証明書を取得するには申請する方本人が現地の日本領事館等に出向くことが必要です。代理人による手続きは認められていません。たとえば高齢や病気で動けないなど、現地の日本大使館や領事館に行けない場合にはどうするのか。その場合には公証人の認証を受ける方法があります。

 ここで重要なのは時間への意識です。遺産分割協議書にサインするわけですから、相続手続を進めるにあたって遺産分割協議書を送る日程を考慮しておくことが大切になってきます。

 もし遺産分割協議で不動産を海外居住者が相続するケースもあると思います。不動産の相続には住民票も必要ですが、住民票という制度がない国が大半です。「サイン証明書(署名証明)」だけでなく、住民票に代わるものとして「在留証明書」を現地の領事館で発給してもらい、不動産相続手続用の住所証明書として使います。

 ここでも注意しておきたいのは発給してもらうには条件があることです。①日本国籍を有していること②現地に3か月以上滞在し、かつ現在も居住していること③日本に住民登録がないこと、です。パスポートが便利ですが、現在住んでいる住まいの賃貸契約書、公共料金の請求書等、滞在期間と現在住んでいる住所がわかるものがあれば発給してもらえるようです。他にも永住ビザや現地の運転免許証などが使えるようですが、事前に大使館や領事館に確認してください。

 もし日本国籍がなくなっている場合には、日本国籍でないため、現地の日本領事館で「サイン証明書」や在「留証明書」を発給してもらうことはできません。一般的には、必要事項を1通にまとめた宣誓供述書を作成し、これに現地の公証人の面前で署名し、それを認証してもらったものを利用します。韓国や台湾のように、印鑑証明制度や住民票制度がある国の場合は、各証明書を取得することになります。

 最後に相続税の問題も忘れてはいけません。これは税理士の先生にご相談ですね。国内と海外で二重に税金を払うことになると大変です。外国で納付した税金を控除する「外国税額控除」の手続きがあるようです。行政書士が窓口になって税理士の先生と連携して進めることも可能です。なんだか面倒だなと思ったら、専門家に頼りましょう。行政書士はあなたの街の頼れるかかりつけ法律家です。お気軽にお声掛けください。