非上場株と相続

 非上場会社が相続税対策として行う新株発行や配当について、国税当局が「租税回避行為」と判断し課税処分を行うケースが急増しているという新聞記事が出ていました。特に、財産評価基本通達の例外規定(総則6項=「著しく不適当な場合」)を根拠に、通常の評価方式が否定されているようです。2024年6月の東京高裁判決でも、国側の主張が認められ、納税者が逆転敗訴したことは、多くの経営者の警鐘になっているようです。

 本来、非上場株の相続税評価は「原則方式(類似業種比準価額・純資産価額)」により計算されることは以前に記事で記載しています。しかし、「相続対策目的で第三者に低価額で新株発行した」「相続発生が近い時期に配当を急増させた」などの行為があると、国税側は「通達による評価は不適当」と判断し、例外規定を適用しているようです。新株の価額を著しく高く評価されたり、株式移転の意図を「贈与」とみなされたりすると、結果として多額の追徴課税が課されるリスクが出てきます。

 非上場会社が新株発行や配当を行うと、①株式数の増加による希薄化、②内部留保の減少による純資産価額の低下、③配当水準の変化による配当還元価額の低下、という仕組みで株価評価額が下がることになるのか。

 たとえば純資産1億円で株式1万株だとすると、1株1万円の計算になります。ここに新株1万株を同額で発行した場合は、純資産は2億円になり、株数は2万株で1株1万円と変わりません。しかし、時価より低い価格で発行すると既存株主の持分価値が移転し、1株あたりの評価額が下がるという仕組みです。時価を下回る価格での発行は「有利発行」とされ、既存株主から新株引受者への贈与や経済的利益の移転とみなされるというわけです。

 また、配当を出すと内部留保(利益剰余金)が減少し、純資産価額が下がります。その結果、純資産価額方式での株価評価は低下することになります。配当還元方式は「1株あたり配当額 ÷ 資本還元率」で評価するため、配当が減れば評価額も下がります。逆に配当を増やせば評価額は上がりますが、内部留保が減るため純資産価額方式では下がる、という逆方向の効果が出てきます。

 ちょっと難しい話になりました。重要なのは、形式的に通達を守っていても、実質が問われるということではないでしょうか。ポイントは次のようなことになります。
1)新株発行は、資金調達目的や事業上の必要性を明確に説明できるか。
2)発行価格は、公正な第三者算定等に基づいているか。
3)配当方針は、長期的・継続的な経営判断に基づいているか。

 「通達の範囲でやっているから問題ない」という思い込みは危険ですね。相続、つまり事業承継は、税理士・弁護士など複数の専門家と連携して透明性の高い計画を立てることが大切だと思います。最新の情報に強い士業に相談しましょう。行政書士にも事業承継に詳しい人材はいます。「そうだ行政書士に相談しよう!」行政書士はあなたの街の頼れるかかりつけ法律家です。お気軽にご利用ください。