遺言書と固定資産税評価額

 所有している不動産の価値を知りたいとき、毎年届く納税通知書をみるのが一般的です。この固定資産税評価額は時価と乖離があるため、遺言書に記載する際には注意が必要です。固定資産税評価額は、市町村が固定資産税を課税するために算出するものであり、一般的に市場での実勢価格(時価)よりも低く設定されています。地域や不動産の特性にもよりますが、時価の7割程度、あるいはそれ以下となることも珍しくありません。

 ちょっと分かりにくいかもしれませんが、たとえば、相続人Aに固定資産税評価額の(時価より価格が低い)不動産を、相続人Bに同額の金銭を相続させるとした場合、金銭を受け取った相続人Bは時価より近い価値を受け取る一方で、不動産を受け取った相続人Aは実際には時価分の財産を受け取ることになり、不満が生じかねません。

 また固定資産税評価額は3年に一度見直されるのが原則であり、その間に土地の公示価格や路線価、周辺環境の変化などにより、実際の市場価値は大きく変動する可能性があります。遺言書作成時点の評価額と、相続発生時点での実際の不動産価値との間に大きな隔たりが生じることも十分に考えられます。

 遺言書に記載された評価額が現実とかなり差がある場合、遺留分侵害の問題も出てくる可能性もありますし、納得いかない相続人は不動産の鑑定評価を求めることになります。こういう状況下では、遺産分割協議が紛糾し、家庭裁判所での調停や審判に発展しなけません。

 遺言書の目的は円滑な相続ですから、真逆の結果になりかねないので、不動産の評価額の算出には注意が必要です。では固定資産税評価額をもとにして問題ない場合はどんなケースなのか。

 遺言書作成時に相続人となる予定の者全員が立ち会い、内容を確認し、同意書などを交わしているようなケースなど、相続人全員が評価額に事前に合意している場合なら、リスクは大幅に低減されます。もちろん、遺産の総額に占める不動産の割合が非常に小さい場合も問題視されにくいと考えます。

 先祖代々の土地など、不動産の厳密な金銭的価値よりも、その不動産を特定の人物にに「そのままの形で」承継させることが目的であり、相続人全員がその意図を理解し、納得している場合などは、問題が起きないケースとして実際に多いかもしれません。

 遺言書に「実際の時価との差額が生じた場合には、他の財産(現金など)で調整する」といった代償分割に関する具体的な条項が盛り込まれていれば問題にならないと思われますが、遺産分割協議を行って遺産分割協議書を作成することになりますので手間がかかります。

 できるだけシンプルに遺言書を作成したいというのが、ほとんどの方の希望になります。しかしトラブルを避けるためには、面倒な作業も必要になってきます。なかなかトラブルの原因は分かりにくいので、遠慮せず専門家に相談してみることをおすすめします。「そうだ行政書士に相談しよう!」行政書士はあなたの街の頼れるかかりつけ法律家です。どうぞお気軽にお声をかけてください。