後見人と医療同意
認知症独居高齢者の医療同意の問題。地域包括支援センターのケアマネの方からの質問にもありました。切実な問題だと思います。地域の行政において、どの程度取り組まれているのか分かりません。議会の質疑応答を扱った松戸市の広報誌でも、議員の方からの質問に出てきてないように思われます。
認知症で法定後見人が選出されたとしても、法定後見人等の権限には、医療同意権が明示的に含まれるとはされていないのが現在の通説になっています。成年後見制度においては医療行為に関する同意権(特に体へのダメージが予想される治療や手術)を後見人が当然に持つとは明記されていません。「身上監護義務」があるとされる一方、医療同意については明文の規定がながありません。そういうわけで医療機関が同意の正当性を不安視する理由にもなっているようです。
とはいえ、実際には医療機関から成年後見人に対して手術や治療に関する同意が求められるケースもあるようです。日本弁護士連合会の見解として、成年後見人が医療同意の代理決定において第一順位、その後に配偶者、成年の子、親、兄弟姉妹といった親族が続く優先順位が示されているようですね。
もちろん医療機関によっては、成年後見人による同意を受け入れないこともあり、救命手術・終末期医療など重大な選択が必要な場面では、「親族の同意」や「多職種会議での決定」を求められることがあります。厚生労働省も多職種会議という方向性を考えているように思われます。詳しくは厚生労働省の「認知症の人の日常生活・社会生活における意志決定支援ガイドライン(第2版)」や「意思決定支援ガイドラインをより理解するための事例集」等を参考にされると良いと思われます。
しかし医療行為の内容によっては専門的な知識がないと判断できるのだろうかという疑念も出てきますし、法定後見人が家族以外の専門職後見人(弁護士、司法書士等)である場合、家族の希望と後見人の判断が食い違うこともあり得ます。感情的な対立や苦情、訴訟リスクならないか、ちょっと心配になりますね。
成年後見制度における医療同意権限の範囲を明確化するための法整備がされれば良いのですが。認知症と診断される前であれば、本人の意思表示の一手としては、任意後見契約が考えられます。任意後見は、本人が自らの将来の医療決定について、判断能力があるうちに主体的に計画し、信頼できる代理人を選任できるからです。
日本では、リビングウィル(事前指示書)に法的な効力はないとされていますが、無意味であることを意味しません。尊厳死宣言書もそうですが、患者本人の意思を尊重する上で極めて重要な倫理的意義を持つと考えられます。医療同意に関する記載がある任意後見契約書が、医療チームや家族にとって、本人の意思を推定する上で重要な参考資料になることは間違いありません。特に身寄りのない独居高齢者にとっては重要だと考えられます。
お金の視点から話題にのぼりやすい「任意後見制度」と「法定後見制度」の違いですが、医療同意の意思表示という視点で考えてみることも必要と、今回気付かされました。投げられた質問にその場で対応策を答えることはなかなか難しいですが、その後で何かアドバイスができるかもしれません。「そうだ行政書士に相談しよう!」行政書士はあなたの街の頼れるかかりつけ法律家です。まずはお気軽にお声をおかけみてください。