公正証書遺言の隠匿

 法務局で手続きする自筆証書遺言保管制度の場合は、2つの通知制度が用意されています。以下に概略を説明しますが、何もしなければ遺言書の存在が分からない可能性は残っています。

 一つは遺言者が指定した方への通知で、戸籍担当部局と連携して遺言書保管官が遺言者の死亡の事実を確認した場合に、あらかじめ遺言者が指定した方(3名まで指定可)に対して、遺言書が保管されている旨をお知らせするものです。遺言者が希望しない場合は通知されません。

 もう一つは関係遺言書保管通知と呼ばれていますが、遺言者死亡後、関係相続人等が遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付を受けたときに、その他のすべての関係相続人等に対して、遺言書保管官が、遺言書が遺言書保管所に保管されていることをお知らせするものです。

 一方、公証人役場で作成する公正証書遺言は、証人2人以上の立ち合いで作成されて原本は公証役場で保管され、遺言者は交付された正本と謄本を保管するのが一般的です。自筆証書遺言保管制度と比べれば遺言書が手元にあるので分かりやすいともいえます。見つからない場合でも、1989年以降、遺言検索システムが運用されているので、相続人等であれば全国どこの公証役場でも遺言書があるかどうかを検索することができるようになっています。

 遺言書を隠した場合(隠匿:いんとく)は法律(民法891条5号)で明記されていて、相続欠格になります。つまり相続人なれないわけです。では隠したのではなく、あることを知りながらあえて存在を告げない場合はどうなるのか。自筆証書遺言の場合は、明らかに隠匿になります。調べれば存在が分かる公正証書遺言の場合は、どうなるのか気になっていました。判例では、事実関係に応じて隠匿に当たる場合と当たらない場合を認定しているようです。

 相続人の1人が他の相続人の1人に対して遺産分割協議の成立するまで存在と内容を告げなかったが、被相続人の妻は遺言書の存在と内容を知っていたというケースでは、1994年の最高裁判決で隠匿に当たらないと判断しています。(遺言書があっても、相続人全員の合意で遺産分割協議が成立した場合は、成立した遺産分割協議によって遺産分割が行われます)

 1997年の最高裁の判決では、遺言書の隠匿があったと認識されても、相続欠格には加えて「相続に関して不利な利益を得ようとする動機・目的」が必要(二重の故意)とあり、内容が隠匿者にとって必ずしも不利とは言えない場合は相続欠格には当たらないという解釈も出ているようです。

 なかなか隠匿という判断も難しいです。どちらにしても揉めてしまうと、相続人間の信頼や関係性は壊れてしまいますね。せっかく遺言書を作成したのですから、問題なく相続手続きを行ってほしいという願いもむなしくなってしまいます。

 死ぬまでは隠しておきたいが、死んだらすぐ発見してほしい、ちょっと矛盾する存在なのが遺言書です。相続発生後のことも考えておくことが大切です。「そうだ行政書士に相談しよう!」行政書士はあなたの街の頼れるかかりつけ法律家です。どうぞお気軽にご相談ください。