遺言能力と公正証書遺言の裁判例

 公正証書遺言は、公証人が本人の意思を確認し、作成する遺言書です。そのため、法律的にも信頼性が高く、争いが少ないと言われています。しかし、遺言能力について疑問が生じた場合、裁判で争われることもあります。今回ご紹介するのは、東京地方裁判所で、84歳の方が作成した公正証書遺言が有効かどうか争われたものです。(令和3年(ワ)第26号)

 一般的に、公正証書遺言は、2人の証人と公証人が立ち会い、厳格な手続きのもとで作られるため、その有効性が争われることは少ないと考えられています。本件では、遺言者(被相続人)がうつ病やパーキンソン病を患い、短期記憶に「問題あり」と診断されていました。また、認知症の検査(CT検査や長谷川式簡易知能評価スケール)は行われておらず、一部では意思疎通に困難があると記録されていました。そこが原告の主張でもあったのですが、にもかかわらず、遺言能力があると判断されたのです。

 裁判所は、以下の点を総合的に判断して遺言能力があると結論づけされたようです。

①遺言作成時の状況:弁護士と事前に1時間近く内容について打ち合わせ、公証人の前で意思を確認するなど、厳格な手続きが踏まれていた。
②遺言の内容:複雑な内容ではなく、合理的で特に不自然な点や第三者の指示によるものと疑われる証拠はなかった。
③遺言者自身の行動:遺言者は施設のケアマネージャーとの会話で、自らの希望を伝えることができていた。また、遺言作成の翌月に行われた要介護認定では、「特別な場合を除き意思決定が可能」と評価されていた。

 この裁判例から分かることは、短期記憶に問題があっても、遺言内容を理解し、自分の意思を伝えられる場合は、遺言能力が認められる可能性があということです。もちろん遺言は公正証書遺言が安心です。厳格な手続きのもとで作られるため、将来、遺言の内容が争われるリスクを減らすことができます。また、認知症検査スケールやCT検査等、医師の診断や日常生活の様子を記録しておくと、意思能力を証明しやすくなります。

 それでも遺言書は健康なうちに準備しておくことが望ましいです。そして遺言を作成する際には、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。「そうだ行政書士に相談しよう!」行政書士はあなたの街の頼れるかかりつけ法律家です。どうぞお気軽にご相談ください。