死後認知と念書

 ずいぶん前の話になってしまいますが、8月に日経新聞に婚外子訴訟の記事が掲載されたことがありました。スクラップした記事をもとに、どんな内容だったか、簡単にまとめると、

①お金持ちの男性が家族には内緒で、本妻以外の女性との間に子供をもうけた。
②家族に発覚した。
③その女性に対して「子供の認知を求めない」とする念書を交わして、関係を精算した。
④子供は認知を求めて申し立てを行った。
⑤家族は女性が誓約書に署名したことで「親権者として子供の認知請求権を放棄している」と反論した。
⑥結局、家裁では、認知を求めることは誓約書によって制限されないと判断した。
⑦高裁では、誓約書の文面から子供が認知請求権を放棄する趣旨とは解せないと結論を出した。
⑧最高裁は上告を退け、認知を認める司法判断が確定した。

※死後認知については、過去の記事「死後認知」をご参照ください。

 死後認知がされると、法定相続人になるわけですから、相続財産を取得する権利を持つことになります。この事件では、すでに誓約書(念書)と引き換えに7000万円を受け取っていて、それ以前に子供の学費やマンション賃料など多額の生活費等を得ていたようで、家族は納得がいかなかったみたいです。女性を相手取って不貞行為に対する慰謝料などを求める訴訟もされたようですが、地裁が認めた賠償額は27万円あまりだったようです。

 新聞記事だけなので詳細は分かりませんが、「はて?」と思ったわけです。ことの発端は男性が入院して家族と子供連れの女性が病室で鉢合わせしたことなのですが、ま、それは仕方がないとして、その後になぜ遺言書を作成しなかったのか。相続を含めて弁護士等、相続の専門家に相談しなかったのかということです。

 女性には「遺贈」という考え方もあるでしょうし、子供には「遺留分」を土台にした考え方もあったと思います。特に「今後も認知や入籍を請求しない」「受け取った以外に金銭を求めない」「家族が不仲にならないよう許可を得るまで自宅に行ったり連絡したりしない」という誓約書というのは、いかがなものか。

 心配なことがあったら、まず専門家にご相談するのが一番です。死んだ後のことは知らないでは、あまりにも家族が可哀そうだと思います。残された人のことを考えて準備しましょう。「そうだ行政書士に相談しよう!」。行政書士はあなたの街の頼れるかかりつけ法律家です。気軽にご利用ください。

ちなみに「念書」、「誓約書」、「同意書」、「合意書」はいずれも文書形式の契約や確認書類ですが、それぞれの意味と用途が異なります。新聞記事では「念書」と「誓約書」の両方の記述があり、その意図がよく分かりませんでしたが、簡単にその違いを説明しておきます。

「念書」: 一方的な確認や念押しの文書
念書は、ある出来事や状況について当事者の一方が事実を確認し、将来の履行や責任を明確にするために作成される文書です。相手方に対して「念を押す」ような意味合いがあります。一般的には、特定の約束や事実の確認、または将来の履行を保証する際に使用されます。法的効力は持ちますが、内容は比較的簡単で、一方的な確認書の形をとることが多いです。

「誓約書」: 自らの意思で特定の義務を果たすことを誓う文書
誓約書は、当事者が自らの意思で特定の義務や責任を果たすことを誓う文書です。強い意志や決意を表明する意味があります。一般的には、特定の行動をとる、あるいはとらないことを約束する場合に使用されます。例として、会社における守秘義務の誓約書などが挙げられます。法的拘束力を持ち、違反した場合にはペナルティが課せられる内容もあります。

「同意書」: 特定の行為や内容に対して同意を示す文書
同意書は、特定の行為や契約内容に対して、当事者が自らの意思で同意することを示す文書です。相手方に対して同意を得るために用いられます。一般的には、契約や処置、処理に関する合意を文書で確認する際に使用されます。医療の場面で手術の同意書が使われるなど、特定の行為に対する許可や承諾を文書化します。

「合意書」: 複数の当事者が合意した内容を記載した文書
合意書は、複数の当事者がある事項について合意した内容を記載した文書です。相互の同意を基に作成されます。一般的には、契約や紛争解決の際に用いられることが多いです。契約内容や条件を文書化し、双方が署名することで法的に拘束力を持つ正式な合意となります。