特別受益の持ち戻し免除の意思表示

 「特別受益」というのは、親から子供に対して援助した新居購入費等の生前贈与のことを言います。「特別受益の持ち戻し」とは、特別受益相当額を相続財産に加算したうえで、法定相続分にしたがって各法定相続人の相続分を計算することをいいます。つまり、生前贈与分を相続財産としてすでに受け取っているものとし、法定相続人間の相続の公平を図る仕組みです。この特別受益に関しては、期間無制限に過去の生前贈与分が特別受益の対象となります。

 この「特別受益」ですが、与えた側、つまり被相続人が「持ち戻ししなくてよい」と意思表示することで相続財産から除くことができます。これが「持ち戻し免除」と呼ばれるものです。

 大切なのは「意思表示する」ということです。口頭でも良いことになっていますが証明することが難しいので、遺言書や贈与契約書に記載することが求められています。モメないためには、ぜひ公正証書で作成されることをお勧めします。それでも「遺言書や贈与契約書は大変なので、それ以外にないのか」というお話もお聞きします。それ以外の書面となると、たとえば、

1.覚書
贈与者と受贈者の間で、贈与の内容および持ち戻し免除の意思を明確に記載した覚書です。この覚書は贈与契約書ほど正式ではありませんが、贈与者の意志を示す証拠となります。

2.念書
贈与者が自身の意思を確認するために作成する文書です。「〇〇年〇月〇日に贈与した財産について、持ち戻しを免除する」といった内容を記載します。

3.メールや手紙
持ち戻し免除の意思を伝える電子メールや手紙です。これらの文書は公式な契約書ほどの法的効力は持たないかもしれませんが、意図を示す証拠として使用されることがあります。

といった書面が考えられます。これらの書面は、贈与者の明確な意思表示を示すためのものであり、相続時のトラブルを避けるために役立つと思われますが、それでも公的な書面で作成することをお勧めします。なぜなら、通常持ち戻し免除の意思表示は、利益を得た相続人に立証責任があるからです。当事者間の私的書面と公的な書面では法的効力はまったく違います。

 もちろん、書面がなくても、判例には「持ち戻し免除」が認められたケースはいくつもあります。たとえば、
【神戸家庭裁判所伊丹支部審判 平成15年8月8日】
この審判では、被相続人が、東京で一人暮らしをしていた相続人に約2年間で4回合計250万円を送金していました。金額や送金時期から東京で一人暮らしをする相続人の生活を心配して送金したものとみるのが相当として、持ち戻し免除の黙示の意思表示が肯定されています。

 このように、病気やその他の理由で自立して生活することが困難な相続人に対して、生活保障として贈与等がなされた場合や、家業を承継する相続人に相続分以上の財産を相続させる必要がある場合なども、持ち戻し免除の黙示の意思表示が肯定されているようです。

 とはいえ、裁判等は避けたいですし、不安があるようでしたら公的な書面にしておくことが一番です。注意しておきたいのは、「持ち戻し免除の意思表示」をしたとしても、遺留分の計算時においては、相続が開始される前から「10年以内」の特別受益が算定の基礎として組み込まれるということです。相続を考える際には、遺留分を考慮しておくことはとても大切だと思います。

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