遺言執行者と死後事務委任契約受任者

 遺言公正証書による遺言執行者と、公正証書による死後事務委任契約の受任者が別人の場合、事務の内容にもよるでしょうが、どちらを優先するのか、調べてみました。

 内容が重複する場合においては、公正証書遺言の作成日と死後事務委任契約の締結日の日付が後のものが優先されるという意見が多いように思われます。その場合の根拠となる条文は以下の条文になっています。

(委任の解除)
第六百五十一条 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第千二十三条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

 気になるのは、事務費用の処理です。遺言は、財産承継についての記載しかすることができません。死後事務委任は遺言と違い、財産の承継以外に関することを自由に取り決めることができます。互いに協力しなければならない場面があるため、十分な調整を行う必要があるとされています。この「場面」というのが具体的に出てきません。

 相続財産の管理については、遺言執行人が優先的に管理することになるようですが、それでは死後事務委任契約の受任者が、葬儀等の費用を自由に使えるのか、疑問が残ります。専門書には、委任事務費用を生前に預かり、その預り金から精算するよう準備しておくのがよい、などと書かれていますが、疑惑を招きやすい行為でもあり、実務では推奨されていません。

 現実は、成年後見人が死後事務委任契約の受任者となり、対象者がなくなられたら、すぐに預金から葬儀費用等を引き出して精算していくのではないでしょうか。金額が少なくないですから立て替えることは現実無理です。相続財産から葬式費用は控除できるということもあります。ちなみに国税庁によると、遺産総額から差し引く葬式費用は、通常次のようなものです。

(1) 葬式や葬送に際し、またはこれらの前において、火葬や埋葬、納骨をするためにかかった費用(仮葬式と本葬式を行ったときにはその両方にかかった費用が認められます。)
(2) 遺体や遺骨の回送にかかった費用
(3) 葬式の前後に生じた費用で通常葬式にかかせない費用(例えば、お通夜などにかかった費用がこれにあたります。)
(4) 葬式に当たりお寺などに対して読経料などのお礼をした費用
(5) 死体の捜索または死体や遺骨の運搬にかかった費用

 なんとも明確さに欠ける内容になってしまいました。やはり、遺言執行者と任意後見人、死後事務委任契約の受任者は同じ人にしておくのが分かりやすく、便利なのではないでしょうか。そして、遺言書の預貯金等の遺産分割方法を定める条項に以下のような文言を加えるなど、対応しておくことが必要だと思われます。

「すべての預貯金から、死後事務委任契約により支払いがなされる葬儀・納骨等に係る諸経費、医療費の精算、受任者に対する報酬、その他一切の債務を弁済したうえで、本遺言の執行費用を控除した残金について、以下のように相続させるものとする」

 「自筆証書遺言の記載の仕方に配慮がなかった」「遺言執行人と死後事務委任契約受任者が異なっていた」という話を耳にします。死後に面倒をかけないように考えての手配が、希望通り楽にならないのではいけません。自力が悪いわけではありませんが、できれば専門家のアドバイスをもらっていただきたい。相続を扱っている士業は行政書士だけでなくいろいろあります。身近に感じる士業で良いと思います。あまり士業に縁がないようでしたら、行政書士は「あなたの街の頼れるかかりつけ法律家」です。ぜひ、頼ってください。