遺産分割協議の取り消しと解除

 どんな時に遺産分割協議の取り消しができるのか。民法では95条の「錯誤」、96条の「詐欺・脅迫」などによる遺産分割協議は取り消すことができるとされています。「詐欺・脅迫」については特別説明も要らないですよね。「錯誤」とは、一般的には「誤解」という意味です。

 たとえば、相続人全員が遺言書の存在を知らずに遺産分割協議を行った後に、遺言書の存在を知り、その内容が異なっていたケースで、遺産分割協議の意思決定に要素の錯誤がないとはいえないとした最高裁の裁判例があります。(最高裁平成5年12月16日)

 要素の錯誤とは、錯誤がなければそのような意思表示をしなかった程度に重要な事項に関する錯誤をいい、改正民放では「錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」と規定されています。

 錯誤によって遺産分割協議が無効とされた裁判例はいくつもありますが、遺産について十分な情報がなかった場合にも要素の錯誤があり無効とされた裁判例などがあります。(東京地裁平成22年9月14日)

 取り消すためには、他の相続人全員に対して、内容証明郵便を利用して取り消す意思表示を通知します。内容証明郵便を利用するのは、取消権を行使した証拠にするためです。取り消しに応じてもらえれば問題はありませんが、応じてもらえない場合は裁判所に「遺産分割協議無効確認訴訟」を提起することになります。行政書士の仕事ではないので、弁護士先生に相談して、依頼を考えることになります。取消権は錯誤・詐欺を知った時(脅迫の場合は脅かされていた状態から解放された時=追認できる時)から5年で時効になります。つまり、取り消しができなくなりますので、注意が必要です。

 一方、解除には当事者の合意に基づく合意解除と、民法541条で定める、当事者が債務を履行しないことに基づく債務不履行による解除がありますが、遺産分割協議の解除では債務不履行による解除は難しいようです。

 合意解除は最高裁で、共同相続人は、既に成立している遺産分割協議につき、その全部又は一部を全員の合意により解除し、改めて分割協議を成立させることができるとという裁判例があります。(最高裁平成2年9月27日)

 債務不履行の場合、相続人の一人が遺産分割協議において負担した債務(一定の行為をすることを内容とする義務のこと)を履行しない(行わなかった)といったケースになります。こうした債務不履行による解除について、共同相続人において遺産分割協議が成立した場合、相続人の一人が協議において負担した債務を履行しないときであっても、その債権を有する相続人は、民法541条によって協議を解除することはできないという最高裁の裁判例があります。(最高裁平成元年2月9日)

 遺産分割協議の取り消しと解除、誰もやりたくないですよね。財産を残す方は、相続人全員とできるだけコミュニケーションを取って、もめないように自分の考えを伝えておくようにおすすめします。もめたら弁護士先生に相談するのが一番です。それを事後法務といいます。反対が事前法務、一般的には予防法務といいます。行政書士は書類作成による予防法務の担い手です。「そうだ行政書士に相談しよう」のキャッチフレーズそのままに、お気軽にご相談ください。