公正証書いろいろ

 公正証書。聞いたことはあるけど、よく知らないという人がけっこういらっしゃるようです。日本公証人連合会のページでは以下のように記載されています。

 公正証書とは、私人(個人又は会社その他の法人)からの嘱託により、公務員である公証人がその権限に基づいて作成する公文書のことです。
 公文書は、文書の成立について真正であるとの強い推定(形式的証明力)が働きます。公証人が当事者の嘱託により作成した文書には、公正の効力が生じ、反証のない限り、完全な証拠力を有しております。このように公正証書は、極めて強力な証拠力を有しております。
 また、金銭消費貸借契約等の金銭の支払を目的とする債務についての公正証書に、①一定額の金銭の支払についての合意と、②債務者が金銭の支払をしないときは、直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されている場合には、金銭債務の不履行があったときは、裁判手続を経ることなく、直ちに強制執行をすることができます。この強制執行力をすることができる公正証書のことを「執行証書」といいます。
 上記のように、公正証書は、皆様の大切な権利の保全とその迅速な実現のために、非常に大きな役割を果たしております。

 というわけで、公正証書による遺言は争いになりにくいので、公正証書遺言をお勧めしているわけです。公正証書はそれだけでなく、いろいろな種類があります。ざっと挙げておくと、

●尊厳死宣言公正証書
 延命治療の拒否などの意思表示に使われます。どのような死を迎えたいかについての自己決定権に基づく宣言=リビング・ウィルという言葉もけっこう目につくようになりました。公証人がご本人の真意に基づく宣言であることを確認した上で作成します。実務的には、家族だけでなく、救急時には担当するお医者さんにも先に知らせておかないと実効が難しい面もあります。その時には、本人が意思表示できないわけですから。
●離婚給付契約公正証書
 養育費、子との面接、財産分与、慰謝料、年金分割など、金銭の支払いを内容とする契約条項については、執行力が認められています。
●任意後見契約公正証書
 受任する機会が多くなった公正証書です。本人が高齢等により事理を弁識する能力が不十分な状態となった時のために、自分の生活・療養看護・財産の管理に関する事務を、予め信頼できる人に委任しておく契約です。この任意後見契約は、公正証書によらなければ効力が生じないとされています。一般的には次の財産管理の委任契約と一緒に作成することになります。
●財産管理の委任契約公正証書
 公正証書上は委任契約と記載されます。本人が事理を弁識する能力は十分あるものの、高齢・病気等による外出困難その他の身体的理由により、自分の生活・療養看護・財産の管理に関する事務を自身では十分できない場合に、信頼できる人に委任するという契約です。通常、任意後見契約公正証書と一緒に作成されます。
●見守り委任契約公正証書
 読んで字の如しですね。本人の生活状況や健康状態等を継続的に見守るための契約です。
●死後事務委任契約公正証書
 死後の葬儀等に関する事務を委任する死後事務委任契約も多く利用されています。
●借地権設定契約、賃貸借契約に関する公正証書
 借地・借家、事業用定期借地権設定、一般定期借地権設定、定期建物賃貸借設定など、賃料の支払いに関する条項については、執行力が認められます。事業用定期借地権設定契約は、公正証書によらなければ効力が生じないとされています。一般定期借地権設定契約や定期建物賃貸借契約に関しても、公正証書その他の書面によらなければ効力がないとされています。
●信託契約・自己信託に関する公正証書
  委託者が不動産や金銭等の財産を、自己や家族等の生活、福祉その他一定の目的のために受託者に信託し、受託者が、その信託の目的に従って、その信託財産を受託者自身の財産とは区別して、管理・運用などする仕組みです。
●その他の各種契約に関する公正証書
 金銭消費貸借、債務承認弁済、売買、贈与、死因贈与、委任、担保設定などがあります。違法・無効なものでない限り、どのような契約についても、公正証書にすることによって、その効力を高めることができます。貸金その他の金銭債務の支払いを内容とする契約条項については、執行力が認められますが、実際に債務の回収ができるかどうかは別の問題になります。
●事実実験公正証書
 貸金庫の開披・点検、特許権・実用新案権・工業上のノウハウ・先使用権など知的財産権の証拠保全、証拠保全のための供述録取などに利用されます。公証人が、自らの五感に基づき、直接体験(認識)した事実(人の供述を含む)を記述して作成されます。もし他人との間で紛争が生じた時、その人よりも先に使用していたとか、亡くなった人が供述してくれていたとか、ある事実が存在したことを証明できれば、自分の権利が守れる場合に事実実験公正証書が役立ちます。紛争の予防策ですね。ちなみに知的財産権の保全には、他に認証や確定日付付与等の方法があって、目的に適した方法を選択できます。

 どう見てもややこしい内容ですよね。法律職でも、法律や行政の仕組み、すべてが頭に入っている人はいないと思います(もしかして、いるかもしれませんが)。それでもご自身でお調べになるよりも、調べるのに馴れている士業に尋ねたほうが早いと思います。「そうだ!行政書士に相談しよう」が行政書士会のスローガンです。頼れる街のかかりつけ法律家、行政書士を気軽に質問してください。