委任と委託

 委任状を使って仕事にかかるわけですが、「業務委任じゃなくて、業務委託ではないの?」という質問を受けました。けっこうそんな疑問を持つ方も多いようで、整理しておこうと思います。

 民法上に規定されている契約は、請負と委任になります。業務委託契約は民法上に規定されている契約態様ではありません。定義自体がはっきりと法的に規定されているわけではないということです。

 請負の場合は、当事者の一方である請負人が、契約内容の仕事を完成させることを約束し、もう一方の注文者が仕事の結果に対して報酬を支払う約束をする契約になります。仕事を完成させない以上、報酬を支払う必要はありませんし、完成させた仕事の結果に瑕疵(本来あるべき機能・品質・性能・状態が備わっていないこと)があれば、請負人は瑕疵担保責任を負担することになります。

 委任の場合は、当事者の一方である委任者が法律行為をすることを、もう一方の受任者に委託し、受任者がこれを承諾するという契約です。委任は法律行為をすることの委託でなくとも(つまり一般的な事務など)、準委任として委任の一つとされています。

 委任、準委任ともに、受任者は善管注意義務(善良なる管理者の注意義務)に従って法律行為もしくは事務を処理する必要がありますが、委託された法律行為もしくは事務について、その完成義務を負担するものではありません。それと注意しておきたいのは、委任者は受任者に対して指揮命令権を持ちません。ちなみに、この委任は民法上では無償が原則ですが、あくまでも原則なので、現実には有償になっていることがほとんどです。

 業務委託として考えたときに、仕事の完成義務があれば請負という位置付けになります。まさしく委託者のいる場所で、委託者の指揮命令のもとで仕事をするというのであれば、請負の一種となるわけです。

 しかし、世の中の事務作業において完成という基準がどこまでなのか判断が付かないものが多いですし、たとえば許認可の申請業務をしても受理されない場合もあるわけで、そういう場合に仕事が完成されていないので報酬は支払えませんとなったら、それまでの作業はタダ働きになります。相続や遺言においても、法的に正しく作業が行われても、後々争族になることはあるわけで、その場合に仕事は完成していないと言われたら困ってしまいます。

 そういうわけで、相続や遺言は法律行為が主ですし、委任業務で行われるわけです。他にも、たとえば事実証明の仕事として会計記帳の業務も行政書士は行います。作業内容にもよりますが、実質的には委任あるいは準委任としてやっている方が多いようです。

 今回は相続と遺言の業務を進める時に、なぜ委任状になるのか少しご理解いただけたでしょうか。どちらかといえば企業法務的な内容とも言えますが、相続を主な仕事としているから他のことは聞けないということはありません。行政書士は「頼れる街の法律家」です。疑問の思ったこと、分からないこと、気軽に話してみてください。