内容が配偶者居住権だけの遺言書
死亡後に住んでいた建物に妻が生涯住めるように、配偶者居住権を遺贈する遺言書を作成。その遺言書に建物の所有に関しての記載はない。この場合、どんな問題があるのでしょうか。
建物の所有に関して特定財産承継遺言があれば、建物の相続人が配偶者居住権の登記義務者となるわけですが、建物の相続人が決まってなければ、遺産分割協議を行って建物の所有者を決めなければなりません。その上で建物所有者が配偶者居住権の登記手続きを拒んている場合には、配偶者が登記手続きを命じる給付判決を得るために、民事訴訟を提起しなければなりません。配偶者居住権の給付判決が得られれば、配偶者による単独の登記申請手続きが可能になります。
もし、遺産分割協議がされていないとなると、建物は共有となっていますので、配偶者は共有者全員に対して配偶者居住権についての手続きを求めることになってしまいます。もともと遺産分割協議がまとまっていないとなると、全員が手続きに協力してくれるかといったら、難しいかもしれませんね。
遺産分割協議が不調になると、遺産分割審判を求めることになり、配偶者居住権の設定を命じてもらい、登記義務の履行も併せて命じてもらうのが通例とされています。やっと配偶者は単独で配偶者居住権の登記申請をすることが可能となります。
内容が配偶者居住権だけの遺言書があるのか、そんな面倒なことが実際に起きるのか、ということですが、たとえば、前妻との間にお子さんがいて、今の妻との間にお子さんがいたりすると、こうした状況もあり得たりします。
遺言者の思いは、配偶者に住み慣れた家にずっと暮らしてほしいということなのですが、その家を誰に相続させるか遺言書に記載しておけば、かなり違っていたはずです。内容が配偶者居住権だけの遺言書では、いわゆる残念な遺言書と言えます。遺言書も自分一人で考えるのが悪いわけではありませんが、できるだけ専門家と相談して、亡くなった後に揉めないように作成していくことをお勧めしたいです。