気になる多重債務の子供の存在

相続不動産がある場合、民法改正で一番気になるのが、多額の借金がある相続人の存在です。

遺言執行者が遺言に基づいて遺言を執行する場合、遺言執行以前に、相続人が勝手に法定相続分に相当する共有部分を第三者に譲渡しても、今までなら、遺言執行の妨害行為として絶対無効とされてきました。

ところが、新法では先に登記した第三者が「善意(=事情を知らない)」であれば、第三者が保護されることになります。

たとえば、以下のようなケースが考えられます。

相続人である子供の一人が多重債務者で多額の借金を負っている場合、その子供が自らの法定相続分を先に登記して、持ち分を「善意(=事情を知らなかった)」の第三者に売却したら、第三者に対しては公正証書遺言に遺言執行者を指定していたとしても何も主張できなくなるわけです。

また、相続人の債権者がいる場合、遺言の内容や執行者の有無に関わらず権利が行使できる旨が規定されました。相続人の債権者は、「善意」「悪意(=事情を知っていた)」を問わず、遺言に基づく相続登記の前に、先に債務者の相続人の法定相続分を登記すれば有効と解されています。つまり、債権者である金融業者等が死亡を知って債権者代位によって先に登記をし、仮差押えや差押えを行ってしまうと、もう対抗することができなくなってしまいます。

権利を取得した第三者から、高値でも買い戻さなければならないとしたら、こんな悲しい相続はありません。

唯一の対抗策は、借金を負っている子供が相続放棄をすることです。相続放棄は、はじめから相続人とならなかったものとみなされますし、代襲相続もありません。しかし、果たして借金を負っている子供が家庭裁判所に申述して相続放棄をしてくれるでしょうか。金融業者が怖くて出来ない可能性が高いかもしれません。

何が何でも、いち早く遺言執行者が就任通知を送り、遺言に基づく相続登記を行うのが重要になってきます。相続を専門とするなら今までとは違い、これからはかなり緊張を強いられると思います。遺言や相続の依頼を検討している方も、まず「不動産相続のリスクには、どんなことがありますか」と聞いてみることが大切です。今までならたぶん「相続税は現金納付なので、現金の用意が必要です」だったと思いますが、相続登記の問題意識があるかどうか、大切な見極めポイントだと思います。