遺言執行者(遺言執行人)のメリット

 公正証書遺言を作成中という方からご質問を受けました。作成のキッカケに家族間のトラブルがあるようなので、「弁護士案件ですね」とお答えしました。公正証書を専門家のアドバイスを受けておられるのかどうか、ハッキリしなかったのですが、遺言執行者の記載の有無が心配になりました。過去(2020年12月5日)に「遺言執行者による銀行手続き」(2022年3月26日)「海外居住者と遺言執行者の復任権」といった、いくつかの記事を掲載しましたが、遺言執行者のメリットについてまとめていなかったので、掲載しておこうと思います。(過去の記事は右メニューの検索窓から「遺言執行者」で検索可能です)

 遺言執行者、読んで字のごとくです。遺言の内容を実現するために相続関連の手続きをする人のことです。場合によって、相続発生後に選任しなければならないケースもありますが、遺言の中で記載しておいたほうが良いケースがあります。

 どのような業務を行うのか、民法に規定されています(民法第1012条第1項)。遺言の内容を実現するために、遺産の管理などの遺言の執行に必要な一切の行為をする権利と義務を有しているとされ、具体的な業務としては、遺産の管理や処分、遺産の調査や引き渡しの請求、不動産登記や預金の解約などがあります。

 基本的なおさらいになりますが、選任の方法は2つあります。遺言で指定する方法と、家庭裁判所に選任してもらう方法です。遺言によって指定する場合、未成年者などの一定の欠格事由に該当する場合を除いて、基本的に誰でも遺言執行者になることができます。指定された人は就任を拒否することもできので、遺言で指定する前にあらかじめ本人の同意を得ておくことをおすすめします。家庭裁判所で選任してもらう場合は、候補者を推薦することはできますが、必ず候補者が選ばれるとは限りません。家庭裁判所の判断で、候補者以外の人が遺言執行者に選ばれる可能性もあります。

 さてメリットですが、やはりトラブル防止が指定しておく一番の理由になります。相続トラブルとして、被相続人の金銭を勝手に持っていかれてしまったり、被相続人の不動産を勝手に売却されたりなど、そうした行為を防ぐことが可能になります。もちろん手続きを基本的に単独で行えるようになるので、相続人である家族の負担が軽くなります。相続人が各地に点在していたり、相続に非協力的な相続人がいる場合に、協力しない相続人に代わって単独で必要な手続きをできるというメリットもあります。

 たとえば、書類に相続人全員で署名、実印を押印、印鑑登録証明書を提出といったことが相続手続で発生しますが、遺言執行者だけの作業で済むようになります。具体的には、相続税の申告を除く以下のような業務を任せることができます。
・相続人・相続財産の調査
・相続財産目録の作成
・不動産の登記申請手続き
・預貯金の解約払戻手続き
・株式の名義変更
・自動車の名義変更
・亡くなった遺言者の代わりに認知を届け出ること
・相続人の廃除・廃除の取消し

 必ず遺言で遺言執行者を選任しなければならないケースとしては、子供の認知、相続人の排除があります。家庭裁判所に申立てができるのは遺言執行者に限られるからです。

 もちろんデメリットもあります。手続きに詳しくない人や忙しく平日に時間が取れない人が遺言執行者になった場合、業務がきちんと行われないことで、かえって相続手続きが進まないといったこともあります。しかし、復任権の利用もありますので、うまく活用することで解決できる場合もあります。

 今回は基本的な内容ですが、ご家族のおかれた環境によってメリットが大きい場合もあります。もっと気になることがあるようでしたら、身近な相続を扱う士業にご相談されることをおすすめします。頼れる街のかかりつけ法律家、行政書士もお忘れなく。