尊厳死宣言公正証書

 脳死と植物状態。どう違うのか、なかなか難しいですね。

 公益社団法人日本臓器移植ネットワークのホームページを拝見すると、脳死とは、脳幹を含む、脳全体の機能が失われた状態で、回復する可能性はなく元に戻ることはないとされています。一方、植物状態は、脳幹の機能が残っていて、自ら呼吸できることが多く、回復する可能性もある状態です。脳死と植物状態は、全く違います。とはいえ、脳死状態なのか、植物状態なのか、医師でない限り、判断は難しいですね。

 脳死の場合は、薬剤や人工呼吸器等によってしばらくは心臓を動かし続けることができるそうですが、最終的には心臓も停止するそうです。欧米では、脳死は人の死とされているようです。1985年(昭和60年)12月、厚生省の「脳死に関する研究班」が、「脳死の判定」のために基準をつくっています。また、1997年6月17日には「臓器移植時の場合のみ脳死を人の死とする」という臓器移植法案が国会で可決、成立しました。脳死後に臓器を提供する場合、法に定められた厳格な脳死判定を行い、脳死であることを確実に判定されています。

 尊厳死宣言公正証書というのは、この脳死状態になった場合に、延命治療を拒否し、人間としての尊厳を守りつつ死を迎えるために作成します。松戸公証役場の説明では、
尊厳死宣言公正証書とは、「疾病が現在の医学では不治の状態にあり、死期が迫っていると医師2人に診断された場合は、延命のみを目的とする措置は行わず、苦痛緩和措置を最優先に実施し、人間としての自然なかたちで尊厳を保って安らかに死を迎えることができることを望んでいる。」という内容を、公正証書として作成するものです。
とあります。

 日本尊厳死協会の「リビング・ウィル」は、植物状態が数か月以上続いた場合に生命維持装置の取りやめを求めるという内容です。公証役場で作成する宣言書は通常、植物状態を含まないと解されています。

 生命維持装置をつけて延命措置をする場合、最終的に心臓が停止するまでの期間は人それぞれになります。したがって延命措置にかかる費用もいくらかかるとは言えません。基本的には「個室料」「寝具代」「食費(経管栄養含む)」が自己負担になり、後は医療費になるわけですが、合わせると自己負担額は1か月20~40万円かかるようです。人間としての尊厳と共に、現実的には費用という面も考えておく必要があります。

 微妙な問題ですし、人それぞれの考え方がありますから、なんとなく歯切れの悪い内容になってしまいました。個人的には、この世に残された体をお金をかけて無理やり維持されている状態はやめてほしい、と思っています。

 おひとり様終活という言葉が目につくようになってきて、尊厳死宣言公正証書は、これからの時代にもっと求められるように感じます。遺言相続のサポートは、単に遺言書や相続手続きに終わりません。どんなことでも気軽に街の法律家である、私たち行政書士にご相談ください。