相続しなかった相続人に特別寄与料の負担

 たとえば、次のような状況を考えてみましょう。

 ① 相続人が兄弟3人だとして、全員が親元を離れて遠隔地で暮らしていた。
 ② 末弟は、亡くなった母親から多額の援助を受けていたため、遺産分割協議の結果、何も相続しなかった。
 ③ 亡くなった母親の面倒は、近所に住んでいる姪が通院に付き添ったり、食事の買い物に付き添ったり、毎日身の回りの世話をしていた。
 ④ その姪から特別寄与料の請求があった。

 民法の改正で、特別寄与者は相続の開始後、相続人に対し、特別寄与料の請求をすることができるようになりました。ただし、相続を放棄した者は相続人ではなくなるので、特別寄与料を負担することはありません。相続人が複数いる場合には、全員にも、一部の相続人のみに対しても特別寄与料を請求することができます。

 各相続人は、協議、協議が成立しなかったり出来ない場合には家庭裁判所によって、定められた特別寄与料の額を法定相続分もしくは遺言による相続分の指定がある場合にはその指定相続分の割合に応じて負担することになります。
 通常の相続債務の場合は、遺言による相続分の指定があっても法定相続分に応じて権利を行使することになります(債権者が指定相続分に応じた債務の承継を承認した場合は、指定相続分の割合になります)が、そもそも相続債務ではなく共有物の負担の趣旨ともいわれる特別寄与料の場合は、指定相続分の割合に応じて負担することになっています。

 相続人であればたとえ具体的相続分がないとしても、法定相続分もしくは遺言による指定相続分に応じて特別寄与料を負担しなければなりません。上記の例でいえば、相続分がないからといって末弟は姪からの特別寄与料の請求を拒むことはできないわけです。もし遺言による相続分の指定がない場合には法定相続分の割合になりますので、特別寄与料として定められた額を兄弟3人で各3分の1の額を負担することになります。

 このケースの場合、遺言で特別受益者である末弟の相続分の割合をゼロにしておくことも考慮すべきだったかもしれません。相続の問題は百家百様であり百人百様だといえます。色々なリスクを予め回避するために、ぜひ、専門家に相談することをおすすめします。