無資力と遺留分負担

 遺留分とは、一定の相続人に対して相続が確保された割合のことです。遺留分の権利を有する者(遺留分権利者といいます)は、配偶者、子、直系尊属で、兄弟姉妹に遺留分はありません。具体的には、遺留分権利者が直系尊属のみの場合は法定相続分の3分の1、それ以外の場合は法定相続分の2分の1が遺留分となります。

 新しい民法と旧民法の違いのひとつとして、遺留分を侵害された法定相続人は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求をできるようになりました(1061条1項)。
 この遺留分の請求に関しては、受遺者(遺贈によって利益を受ける人のことです)・受贈者(贈与によって利益を受ける人のことです)は、1047条1項の定める順番に従い、遺留分侵害額を負担することになります。

 順序自体は旧民法(旧1033条~旧1035条)と同じて変わりません。
①受遺者と受贈者がある場合には、受遺者が先に(1047条1項1号)、
②受遺者が複数ある場合には、遺言者が遺言で各段の意思を表示していない限り、、遺贈の目的の価額の割合に応じて(同項2号)、
③受贈者が複数ある場合には、後になされた贈与の受贈者から順に(同項3号。贈与が同時になされている場合には②と同様の方法になります)、
負担することになります。

 この順序に従い遺留分侵害額を負担することになる受遺者・受贈者が無資力である場合についても、旧法と同じで、1047条4項が「受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する」と定めてあります。
 これがどういうことなのか、ちょっと分かりにくいので、具体的な例で考えましょう。

Aさんが死亡し、相続人が長男Bさんと次男Cさんとします。
Aさんの遺産は銀行預金の1000万円で、債務はありません。
Aさんは死亡する7年前、長男Bさんに対して、特別受益として甲土地3500万円を贈与していました。
また、Aさんは死亡する1年前、甥のDさんに対し、乙土地1500万円を贈与していました。

 この場合、③の場合ですから、後になされた贈与の受贈者に遺留分侵害額請求をすることになります。

次男Cさんは、従兄弟にあたるDさんに対して遺留分の主張をしたのですが、
ところが、Dさんはその直前に事業に失敗しおり、乙を失い、無資力状態にあります。

 次男Cさんの遺留分は(1000+1500+3500)×1/2×1/2=1500万円

 次男Cさんの遺留分は1500万円であり、銀行預金の1000万円を取得しても、遺留分が500万円侵害されています。
 侵害額請求の対象としては従兄弟のDさんに対して500万円の金銭債権を取得することになりますが、無資力リスクは、遺留分権利者である次男Cさんが負担するので、Dさんに対して請求が出来ないばかりか、長男Bに対しても請求することはできないのです。

 ちょっと次男Cさんが可哀想な気がしないでもありませんが、1047条4項(旧1037条)は、先着順位者の無資力によって次の順位者がリスクを負担することは条理に反するという考慮に基づいたものといわれています。

 これだと、従兄弟との関係はもちろん、兄弟間でもモメる可能性が高くなってしまいます。Aさんは兄弟仲が悪くなることなんて望んでいなかったはずです。相続の問題は、遺留分のことなど、早いうちから考えておくべきですし、モメないための相続対策をしておくべきです。少しでも不安があるなら、ぜひ、ご相談ください。