遺留分を考慮した遺言書にも注意

 遺言書を作成する時に、後々もめないために遺留分を考慮した内容にしておいた方が良い、と相続の専門家はいいます。私ももちろん、そう思いますが、遺留分の計算には注意も必要です。

 遺留分とは、相続人が被相続人(亡くなった人)の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことで、被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのないものです。

 この最低限の取り分があるにも関わらず、遺留分に相当する財産を受け取ることができなかった場合、贈与又は遺贈を受けた者に対して、遺留分を侵害されたとして、その侵害額に相当する金銭の支払いを請求することできるわけです。

 これを遺留分侵害額の請求といいます。相続の取り分でもめることがないように遺留分を反映した遺言書づくりが推奨されています。しかし、この遺留分を計算するのにも法律の知識が必要になってきます。

 たとえば、相続人が妻Aと前妻の子BとCで、以下の状況の場合を考えてみましょう。

  ① 土地と建物 3500万円
  ② 預貯金   1500万円
  ③ 13年前にBの結婚新居の用地として3100万円の土地を購入して贈与
  ④ 8年前にCの起業のために現金1000万円を提供
  ⑤ 1か月前にBの誕生日プレゼントとして100万円をBに贈与
  ⑥ 半年前に姉の老人ホーム入居金の一部として200万円を支出

 民法改正以前であれば、
①から⑥のすべてが、遺留分算定の基礎となり得ます。
つまり3500+1500+3100+1000+100+200=9400万円になります。

たとえば、前妻の子Cの遺留分の割合は
9400×1/4(法定相続分)×1/2(遺留分割合)-1000(特別受益)=175万円

もし、遺言書で遺留分を考慮するとなると、
175万円相当の財産をCに相続されることを考えておくことになります。

 今回の民法改正によって、相続人に対する贈与に関して、少し事情が変わってきました。算入すべき贈与を特別受益としての贈与に限定して、期間も相続開始前の10年間に短縮されました。誕生日プレゼントは特別受益として算入されない可能性が高く、13年前の贈与も遺留分権利者に損害を与えることを知って行われたことを立証しない限り算入されません。
つまり、遺留分を算定するための財産は①②④⑥となり、
3500+1500+1000+200=6200万円

前妻の子Cの遺留分の割合は
6200×1/4(法定相続分)×1/2(遺留分割合)-1000(特別受益)=-225万円
マイナスとなってしまい、遺留分は侵害されておらず、
遺言書作成においては、まったくCに財産を相続させない内容でも問題はなくなります。

 遺留分を考慮した遺言書の作成といっても、それまでの贈与などを洗い出して整理する必要があります。自筆証書遺言の保管制度も始まり、私が作成した専用下敷きを求められる方もちらほらといらっしゃいます。ありがたいことですが、やはり内容に関しては法的な知識がないまま作成していくのにはリスクもあります。ぜひ、専門家の意見も大切にしていただきたいと思います。

 最後に、遺産分割協議において遺留分未満の価額の財産しか取得しないことに同意した場合、遺留分が侵害されたことにはなりませんので、その点も知っておきましょう。遺産分割協議で遺留分を考慮するように言われたという方もいるようなので、注意が必要ですね。