配偶者居住権と死因贈与

 死亡後に住んでいた建物に妻が生涯住めるように民法改正で施行された配偶者居住権。この配偶者居住権は、登記が必要ですが、その登記のタイミングによっては配偶者居住権が認められないケースがあります。

 遺贈、死因贈与を問わず、贈与者の死亡により配偶者居住権が成立し、配偶者居住権は登記がされる前に、当該建物に抵当権が設定されその旨の登記がされていた場合には、配偶者居住権はこの抵当権には対抗できません。抵当権が実行され買受人が現れると、配偶者は明渡請求を拒むことができなくなります。

 亡くなった方、あるいは家を相続した所有者が、債務の保証をしていた場合、身内でもなかなか知らないこともあるようなので、このようなケースが出てくるようです。

 もし、そうした問題が心配であれば、死因贈与の検討をしてみることも大切です。先ほど「遺贈、死因贈与を問わず、…」と書いてたじゃないかという指摘がありそうですが、死因贈与には、遺贈と違う点がひとつあります。不動産の死因贈与を受けたときは、仮登記ができるという点です。

 抵当権の設定登記がされる前に、贈与者の承諾を得て仮登記の申請をし、始期付配偶者居住権設定仮登記がされていれば、贈与者の死後、これを本登記にすることにより、配偶者居住権を抵当権に優先させることができると解されています。(仮登記自体は、第三者に対する効力はありません)

 死因贈与は「遺言」ではなく、「契約」の形をとります。契約は、口約束でも成立しますが、死因贈与の場合も契約書を作成しておくほうが安心です。書面に残っていれば受贈者が困ったり、相続人ともめるといったトラブルを回避できます。

 遺贈の場合は、放棄されることもありますが、死因贈与は、お互いの合意の上に契約が成立しているので、贈与者の死後に受贈者は必ず財産を受け取ることになります。このため贈与者にとって、指定した相手に確実に財産を渡せるという違いもあります。

 逆にデメリットとしては、遺贈の遺言とは違って契約内容を撤回できない(すでに履行済みの負担付死因贈与は別として、贈与者が亡くなる前であれば贈与者のみの意思で契約内容を撤回することが可能)、不動産の場合は税金面で不利(遺贈と比べて不動産登録免許税が高く、不動産取得税がかかる)になるということですが、債務の存在などで配偶者居住権の登記が心配な場合は、考えてみることをおすすめします。

 登記は司法書士の専任業務ですが、相続は登記だけの問題ではありません。相続に関する、そうした士業連携の窓口としての役割を行政書士が担っています。相続で悩んだら、まず頼れる街の法律家、幅広い知識を持った行政書士に相談していただければと思っています。